CASE 03

「“能動性”が内部環境
を変える鍵」ソニーの
ダイバーシティ&
インクル―ジョンは
新たなフェーズへ

(写真右より)

ソニーコーポレートサービス株式会社
人事センター ダイバーシティ&エンゲージメント推進部 D&I推進2Gp

竹田 恭子

ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社
V&S事業部 商品設計部門 商品設計1部3課 統括課長

石田 浩之

ソニー株式会社
監査委員会 補佐役

林 尚史

「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」をPurpose(存在意義)とし、エレクトロニクス、エンタテインメント、イメージセンサー、金融など多様な事業をグローバルに展開するソニー。日本を代表する企業である同社は、創業当初から世代・性別・バックグラウンドなど、あらゆる多様性を尊重する組織風土があります。そんなソニーが進めているダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の次のフェーズとは? グループに新たな風を吹かせるべく奮闘する、3名の担当者に話を伺いました。

 

創業時から受け継がれている「多様性」の価値観

D&I推進の目指す姿と、これまでの取組みについて教えてください。

竹田 恭子<以下、竹田 多様性の尊重は、ソニーの創業当時から社員が大切にしている価値観の一つです。創業時に書かれた設立趣意書のなかでも、「個人の技能を最大限に発揮」できる環境を目指すことが記されています。これを現代では「多様性の尊重」と解釈し、コーポレートカルチャーとしてグループ全体で受け継いでいます。

(以下、設立趣意書からの抜粋)

一、真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設

一、従業員は厳選されたる、かなり小員数をもって構成し、形式的職階制を避け、一切の秩序を実力本位、人格主義の上に置き個人の技能を最大限に発揮せしむ

 

そのDNAを改めてソニーグループ全体の共通理解とすべく明文化し、2013年に制定したのがダイバーシティ方針(ステートメント)*です。D&Iを推進するうえでは、属性に目が向けられがちです。しかし、属性を受容するだけでは本質的な課題解決にはなりません。私たちが目指すのは、一人ひとりが尊重され、誰もが存分に力が発揮できる企業風土を創ることで、ソニーグループ全体でD&Iを推進しています。

竹田:2019年に制定されたSony's Purpose & ValuesにあるValues(価値観)の一つにも、「多様性:多様な人、異なる視点がより良いものをつくる」が含まれ、さまざまなバックグランドやスキルを持つ一人ひとりの社員が、お互いの強みから学び合い、活躍できる環境づくりを目指しています。

その実現のため、ソニーグループでは4つの軸をもってアプローチを行なっています。

①トップマネジメントのコミットメント

②本人への働きかけ

③組織への働きかけ

④環境整備

女性活躍、両立支援、障がい者雇用、LGBTなどD&Iのテーマは多岐にわたりますが、それぞれの課題解決の取り組みを、この4つの軸を基に実施しているのです。

 

*「ダイバーシティステートメント」

さまざまなビジネス分野での活動において、多様な価値観を尊重し、新たにチャレンジすることは、グローバル企業としてのソニーのDNAでありイノベーションの源泉です。ソニーは、その経営方針の一環として、健全な職場環境の整備と多様な人材の採用・育成・登用により、グループ全体でダイバーシティを推進します。

「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とは

「ダイバーシティ」とは、人種、国籍、宗教、信条、障がい、性別、年齢、出身地、性的指向および価値観、働き方などの特徴の多様性、および多様性を尊重する活動を意味します。ダイバーシティ(=多様性)を尊重し、お互いを受容することで、社員一人ひとりの能力が最大限に発揮されイノベーションにつながります。

 

多様性を尊重した組織風土づくりを進めることで、お客様への価値創造に貢献することが、ソニーが目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」です。

社員が、社員とともに、社員のために行う「DIVI@Sony」

D&Iを推進するための仕組みや、具体的な活動内容について教えてください。

竹田会社の施策としてさまざまな取り組みを行なっていますが、今回は2005年から活動を続けている「DIVI(ディヴィ)@Sony」をご紹介します。

「DIVI@Sony」は、D&I推進のために、社員目線で感じている課題を、社員自身で解決するための、30名程度で運営している社長直轄プロジェクトです。開始当初は、「ジェンダー」にフォーカスした取り組みを続けていましたが、ここ数年は「育児」「介護」「グローバル籍社員のサポート」といったテーマを決めて活動をしています。

具体的には、父親向けの育休セミナー、介護セミナー、介護関係の映画上映、異文化コミュニケーションワークショップ、トップマネジメントインタビューなど多岐にわたる啓発イベントの開催やDIVI@Sonyサイトで開催報告などの情報発信を行なっています。年に2回は社長・役員へ報告し、提言ができる場もあります。

林 尚史<以下、林: メンバーのバックグラウンドは実にさまざまなので、多様な視点や意見を出し合い、熱い議論を重ねながら、活動を進めています。組織を超えた新たな出会いにより自分自身の成長が感じられるのも、このプロジェクトのよいところです。

しかも、社員自身が能動的にドライブしている活動なので、人事主導のイベントでは得られないような、社員への納得度があります。

プロジェクトチームを進めるうえでの工夫点や苦労したことを教えてください

竹田:事務局の立場では、まず参加したメンバーに対し、ソニーグループの取組みを共有するなど、D&Iを理解するための情報提供から始めます。そのうえで、今のソニーに何が必要かを考えていただきます。多様なバックグラウンドを持つメンバーがいるので、事務局もそれに合わせて活動内容をサポートしています。

組織が「フラット」であることは、このプロジェクトの良さでもあり、同時にその難しさでもあります。通常の組織であれば責任者がいて、決定権を持って進めることができますが、メンバー全員がフラットな立場で意見を出し合いながら進めるので、いかにコンセンサスを取るかが重要です。ただ、能動性を持ったメンバーが参加しているので、共通のゴールが見えてくればプロジェクトは加速度的に進んでいくという側面もあります。

林:私は2017年4月から、DIVI@Sonyの育児チームで2年間リーダーを務めさせていただきました。2019年4月からは、DIVIチームの今後の在り方を考える後方支援をさせていただいています。

私が2年間リーダーを務めるなかでは、ワーキングマザーの座談会や、ロールモデルの紹介、“ちちおや育休説明会”を立ち上げました。また、育児の活動とは離れますが、フレキシブルワークの推進やマネジメント向けダイバーシティプログラムの企画も行いました。

メンバーの皆さんからは多くのアイデアが上がってきますが、時間や工数が限られているなかで実行しなければなりません。数多く出てくるそれらのアイデアをまとめ、なるべく多くの方の意見を反映させ、目に見える形で活動実績が残せるように配慮をしてきました。

また、そこに集ったメンバーが “やらされ感” で参加するようではいけません。皆、通常業務を抱えながらの活動になりますので、あくまで強制的にはせず、能動的かつ自由に活動していただけるように工夫をしてきました。

「イクボス」がソニー内部に与える変化

今回のイクボス講演やワークショップの期待や反応、成果をお聞かせください

石田 浩之<以下、石田:まずD&Iを推進するうえでは、ボトムアップとトップダウン、いずれか一方に偏らせるのではなく、両方が必要になります。しかし、それだけではなく、トップとボトムの間をつなぐ「部門長」や「部長」クラスの方々による協力が必要でした。そこで部門長、部長クラスの方々を巻き込んで、今回のイクボスプログラムがスタートする運びになりました。

企画を進めるにあたっては、参加した社員が「どのようなメリットを持って帰れるのか」ということを常に念頭に置き、グローシップの小田桐社長と一緒にアイデアを出し合い、決めていきました。

DIVI@Sonyでは、毎年ダイバーシティ推進に関する意識調査を行なっています。そのなかには一般社員と管理職で差が出る設問があります。例えば、管理職はD&Iを推進している実感があっても、部下はあまり実感がないなどです。聞いてみると「実際に現場で何をすればいいかわからない」という声が多くありました。そこで現在は、社員が現場で具体的な行動に落とし込めるよう、講演会やセミナーを行なっています。

石田:また、進めるなかで気づいたのは、「イクボス」という言葉の与える誤解です。

社員が「イクボス」と聞いたときに、「イクメン」を連想し、育児に熱心なビジネスパーソン、もしくは「男性育休に理解のあるマネージャー」を育てるプログラムのといった印象を与えてしまっていたようなのです。誤解を生まないよう工夫し、プログラム名は「ダイバーシティマネジメントプログラム@Sony」としました。イニシャルを取って「DMS(Diversity Management program @Sony)」と呼んでいます。さらに「DMS」から派生させ、「ダイバーシティで未来のソニーを創る」というキャッチコピーもつくりました。

講演会、ワークショップと実施してみての反応はとてもよく、ポジティブなコメントが多かったです。こういった活動の成果が目に見えるまで、少し時間がかかると思いますが、成果は必ず出ると信じています。

動画をつかったインナーブランディングの反応はいかがでしたか?

石田:動画を使うことでメッセージが伝わりやすいように思っていて、自分たちの活動を伝えるための非常に良いツールになっています。既に活用の場がありましたが、反応は上々で、今後もこの動画を活用しながら、活動を広げていきたいと思っています。

竹田:その場の雰囲気や空気感は、言葉を尽してもなかなか伝えきれません。しかし、動画なら言葉や文字よりも多くの情報を伝えることができます。そこがやはり動画の良いところだと実感していますね。

プロジェクトの今後の展開や取り組みたいことはありますか?

林:私のなかで印象に残っている部分があります。年に2回の活動報告会における前社長の平井の言葉です。「競合他社や市場の変化に対応するだけでなく、内部環境の変化に対してもマネジメントは“経営課題”として取り組むべきではないか。」というメッセージです。

これは私に強く響きました。とはいえ、マネジメント職をされている方々は非常に忙しい。これは本人たちの働き方改革ができていない証拠でもあります。しかし、そこにこそ、平井のメッセージに内包された、内部環境への希望や勇気、具体的な改善方法を発信し続けていければいいと思っています。

「社員のマインドセットを変える」といった傲慢な考え方ではなく、好事例や気づきを少しでも発信し続けることで、内部環境がどんどん変わっていくことを期待しています。

  • Corporate profile

    ソニー株式会社

    108-0075東京都港区港南1-7-1 TEL.03-6748-2111(代表)
    https://www.sony.co.jp/

    https://www.sony.co.jp/SonyInfo/diversity/

    1946年創業。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」をPurpose(存在意義)とし、エレクトロニクス、エンタテインメント、イメージセンサー、金融など多様な事業をグローバルに展開する。

  • PROFILE

    竹田 恭子(たけだ・きょうこ)
    2008年、ソニー株式会社入社。オーディオ商品の海外マーケティングを担当し、3年間のフランス赴任を経て、2015年より人事部門へ異動。ダイバーシティ&インクルージョンの推進を中心に、働き方改革、両立支援を行い、制度企画からセミナー運営まで幅広く担当。プライベートでは3歳の娘の母。

  • PROFILE

    石田 浩之(いしだ・ひろゆき)
    2000年、ソニー株式会社入社。ヘッドホンの設計としての経験は10年以上。世界初のデジタルノイズキャンセリングヘッドホンの設計に携わる。双子の娘と息子が産まれた2009年に5ヶ月間、育児休職を取得。2011年から3年間、MKとしてシンガポール赴任を経験し、再びヘッドホンの設計を担当。2018年からDIVI@Sonyの活動に参加し、育児チームで男性育休取得推進の説明会やダイバーシティマネジメント講演会の企画・運営・司会等を担当。プライベートでは地元小学校のオヤジの会の会員で、学校行事のお助け活動を行なっている。

  • PROFILE

    林 尚史(はやし・ひさし)

    2003年、ソニー株式会社入社。6年間の中国赴任を経て、2012年より経理を担当。2018年8月よりソニー株式会社の取締役で構成される監査委員会をサポート。DIVI@Sonyの活動には2017年から参加し、男性育休取得推進や中学受験を控えるママパパ向けの説明会を担当。プライベートでは高1と中1の二人の娘の父。

実績とお客様の声一覧